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silentdogの 詩と昼寝

詩をおいてるばしょ。更新はきまぐれ。

町のはしまで

わたしは早々にわたしから分かれて右に曲がった。わたしは角をまがるたびに、別れを告げて分裂した。気まぐれに曲がり、その度に意志が純粋になるもう一人のわたしを背に、もやもやしながら歩いた。


町には角が無数にある。方眼紙のような町に生きるために生まれたわけではないのに、ここから出て行くため沢山の角をまがり、わたしは増えていた。道すがら、見知った人に会釈する。工事看板を避ける。橋のない水路を飛び越えて渡る。セール品のつまれたワゴンを覗く。パン屋の試食をつまむ。別れた恋人の恋人に見つからぬよう隠れる。そしてわたしは、どうしようもなくここに生きる。


ここに生きるわたしは、今どのくらいいるだろう。ときどき、背後に残してきたわたしが気になった。よこしまで気まぐれなわたしが去った後、わたしは一体どんな言葉を吐いているだろう。


あるとき、通りの向こうに、いつ分裂したのか分からないあるわたしが、犬の横っ腹を蹴っているのが見えた。にくにくしげに。わたしは呆然として、しばらく足が動かなかった。犬を愛してやまないわたしの、いったいどこにあんな感情があったろう。いいやもしかすると、分かれたあとに何かあったのかもしれない。そうに違いない。向こう側に去って行くわたしを眺めながら、わたしはもう、あのわたしを彼と呼ぶしかないのだろう、と思った。まるで知らない道を歩くあのわたしは、わたしとは呼べない。だから、わたしが残してきたわたしはもう、彼なのだ。もはやわたしではないだろう。


けれど、わたしは立ち尽くしながらも、自分の足に感じていた。犬を蹴った感触と、こみあがるようないらだち。わたしは、やはり氾濫した川のような一人なのかもしれない。


いつかどこかで収束するだろうか。氾濫したまま海へなだれこむように、もはや誰でもない他人のようにしか生きられないのか。わたしは、どんどん広がるわたしの中でただ一人、孤独を感じているのだろうか。わたしは歩きながら考える。そして、また気まぐれに曲がる。曲がる直前まで、わたしは何もかもを失ってしまったように感じているのに、曲がった直後、本当に何もかもを失ってしまったように感じる。振り返るのはわたしだけか。犬を蹴った彼も、振り返らずに去っていった。わたしだけなのか。


あの寂しい家で、わたしはただ一人だった。のぞんで家を出たのに、今はみんなに会いたい。とても小さなわたしに収束したい。小さく、町の外で震える日がほしい。わたしは沢山のかれらとともに町をかけぬける美しい筋肉だった。そう誰かに告げることができないとしても。満ち足りたピリオドとして、この町の端に立つことができたら。そんな風にいくら望んでも、わたしはどこまでも、わたしの亜流なのだ。