silentdogの 詩と昼寝

詩をおいてるばしょ。更新はきまぐれ。

ねむるための庭

眠りはだれにでもおとずれる

ねむの木に花がさいていた。 おさないころ、ねむの木は夜眠るのだ、と聞いたことがあった。木が眠るとは、まるでおとぎばなしに出てくる植物の話のようで、遠いくににあるのだと思っていた。 夜にひらく器官。闇をとざすための目蓋。 ある日、めぐの家をたず…

うちわ屋

この辺りではこれは伝統工芸品なのですか うちわをしずかにかたむけた老婦人はそのようです、と言った 夏至の夕ぐれ これがそうです、と少しくたびれたうちわを差し出された半分は普通のうちわでもう半分は、透明な地に墨絵が描かれている これはどちらも同…

群生地

植物のために土になるそのにがく青い匂い 崩れた詩のようにひとつらなりにゆらゆら眠るしたしい人々したしい土よわたしもおそらくその途上にある あふれるからだをほたほた落としゆくさきざきの土になる たちのぼるしずけさのなかに町がある 午後に午前に待…

菌類の先端

わたしにも速度がある誰にでもあるというからにはあるに違いない とても遅い 祖母たちの三度目の転生にすら追い抜かれる 巨樹のさかえた森の最後のらく葉の日にすらも間に合わない かぎりなく静止に近いとも言えるわずかに動的であるともだがたしかにわたし…

みずに映る部屋

* ガーベラ 美しいうたに背をむけて火と水のしずかな料理をしあげていた すでに音楽もやんでわたしのたたずまいはつめたい石にこめられる沈黙とひとしくそこにたえず影をつくっていた ふりかえるとみずみずしかった花も午後のひなたのなかに砕けて目をそら…

ここで、さよならだ

わたしは常にわたしから脱出するというひとつの運動だともいえる 海峡をこえる国境をこえる境とよべるかぎりのものをひたすらにこえる着脱式のものはすべて置き去りにする名前さえも 成形の途上のあたらしさが次から次に湧きあがるからだ脱ぎすてるふりほど…

まだ先のこと

ハイウェイを つかうとしても みどりいろの森林と 海がさかさにうつるスフィアと そのただなかを走れるときがきたら それがそのとき よわよわしい数々の怪物が いきたえだえにからだを横たえているのが 深い谷あいへの道のようになって それをゆらゆら避けな…

なつつばき

花をおとしたつばきを前に こんなふうにわたしも おとすだろうと思っていた あしもとに散らばる 花ばな こんなふうに つばきも 抱えているのだろう この身のうちに いつかわたしではなくなるものを 生きているあいだは ずっと、おもく 流れた血は海になる 切…