silentdogの 詩と昼寝

詩をおいてるばしょ。更新はきまぐれ。

冊子をつくってみました

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これまで作ってきた詩などを、冊子にしてみました。
とはいえ、充分な道具もないので、切って綴じただけの粗末なものです。 
 
横書きでしか見たことのない自分の詩を、縦書きで、紙をめくりながら読んでみたかったこともあって、冊子という形にできただけでかなり満足しています。
 
今日、文学フリマ金沢というイベントに参加する予定なのですが、
そこに出してみようと思います。
こうしたイベントに参加するのは初めてです。
無料ではあるけれど、どのくらい持っていってもらえるかな。
私自身は会場内のどこかで仕事をしているので、
ブースには無愛想なヒルネスキー氏が座る予定です。
 

ファイン

 


わたしたち
沸点が似ているけれど
ほんとうに少しだけ
わたしの方が低いから
こんな陽気な日は先に
蒸発し始めるのです
耳の中がゆだちはじめると
あなたがまだ穏やかに器のなかにくつろいでいる
ただそれだけのことが
音になって聴こえてくるのです


わたしは先に気体になじんで
かたちから解放されて
まずは北をめぐります
ぐるりと旋回してもどってくると
ようやくあなたの腕が蒸発しきるのです
わたしはだから暇をもてあまして
今度は西をめぐります
するとようやくあなたの上半身が
わたしにも混ざり始めるのです


わたしたち
ちょうどいい高度を保って
東をめぐります
それから午後二時になるまで時間をかけて
南にゆき、昼寝どきの気体のなかにとけるのです


あなたの足が結露するように現れると
わたしも重くなりはじめます
あなたの肩が現れるころ
わたしの足のつまさきがようやく
土を踏むのです
けれどそんな小さな差に気づかないほど
わたしたち笑い上戸で
本当にこんな陽気な日は
笑いがとまらなくて、とまらなくて

 

 

いき、うた、それから、かぜ

弧をえがく歳月を

巡り続ける

ひとのかなしさ

わたしの抱える罪も

かなしさの一部分だ

だから

声高に宣言するきみらのことを信じずに

この一瞬をいきるための

あたらしい呼吸法や

新しい文章を

さがしていた

それは蟻や鳥のなかに

あるかもしれず

樹脂や鉄や石

音楽のなかに

あるかもしれなかった

建築や

真空やひかり

人のなかにも

あるのだろうか

これから

文字をラベンダー色で書こう

七つの岩山のふもと

山羊たちをしたがえて

うたうひとびとにとどく風がふいているあいだは

ヴァーチャルマリッジ

 

仮想の湖で

弟は釣りをしている

 


詐欺師たちのいるフィールドから離れた

うつくしい湖畔の町

小さな家を構え

動かない波の中に

糸を垂らしている

釣った魚を近所の魚屋にうりつけて

生計を立てている

「それが幾らにもならず苦しいので

 魚屋の男と結婚することにした」

 


繊細な領域にすむ弟よ

 


昨日今日の

ほんとうの収支は

デスクの上にふんわりと重なっている

苦しさはどこまでも

りくつづき

だが秋の空も同じように広く続いているだろう

お前の魚のたかく売れる日は

天を高く

婚礼の日は

二羽の鳶をはなつ

それをわたしからの仮想の祝福としよう

 

 

降雪のとき

 

雪が音を吸い

うたに意味だけがのこる

だから冬は

うたわない、と

歌手たちは言った


うたのなかのことば

ことばのなかのうた

かれらが一人

また一人

重い罪を負わされてゆくのは

見るに耐えないのに

うたのならない冬の

血、冬の血

冬は

なんとうつくしい雪に

うもれてゆくのだろうか

わたしは目をつむることができないでいます

 

 

いのり

 

すれちがうときになる音を

いくつも引きずっている

船は音楽のようだった

わたしにわすれられない人たちがあるように

船にも刻印のような出会いがあっただろう

時を経るごとに複雑になる

轟音に包まれている

 

三時

 

かれらは長い目をとじ

わたしも二つの目をとじる

一、二、三、四・・・

一日のうちでその数秒は

とてもしずかな

何も起きないひととき

 

 

 

 

 

 

***

 

今年一年、読んでくださってありがとうございました。

平凡な生活のなかの、平凡なことばをぽちぽち組むだけですが、

ささやかな冒険、ささやかないくさ、私はとても楽しかったです。

また来年も、色んな詩を作って遊び倒したいと思います。

 

くるとしがみなさまにとって、よりよい一年になりますように。

 

水温

 

 

コップ一杯の水が

わたしのいない部屋の中で

少しずつ冷えてゆく

長い旅をしたらいい、と言われて

わたしはでかけたのだった


時がたてば

呼吸しない室内も

いきをしはじめる

たとえば

セキレイの走る足音

木の葉が風にすれる音

隣人が去ること

家屋が崩れおちること

ひとつひとつ

波となって

部屋をふるわし

水をゆらし

だから水温は

ひそかに上下する


わたしの不在に

微細な凹凸の歴史をあゆむ水


ある冬わたしが

戻ったとして

その懐かしい部屋に

かわらず水があるとして


するどく冷たい水が

あるとして


するどい、とわたしは思うだろうが

そのときはどうか多めに見てやってくれないか

わたしの帰路のことを何も知らないきみならば

わかってくれるだろう


何もひきずらない

表面で互いにゆるみあう温度こそが

ほんとうのことだ

それを飲んでようやく

帰ってきたのだと思うだろう