silentdogの 詩と昼寝

詩をおいてるばしょ。更新はきまぐれ。

よづりの愉しみ

 

わたしの好きな時間といったら
16:45からはじまる15分間だ

みんなが仕事を終えて
それぞれの車で夕陽にきらきらする港へ向かうのを
見送るとき

事務所の涼しい陰で
斉藤さんたちとお菓子をつまみながら
課長が工場の戸締まりを全部終えて帰ってくるのをまつとき

その課長が鍵をしめて
やはり港へ向かうのを見送るとき

そうやってだんだんと
夕闇が冷えてゆくときだ

鉄を加工して
手から手へとそれを運ぶ作業だから
ヘルニアも多いし
難聴も多いし結石もおおくて
休憩時間となると通院の話
それ以外は朝から夕方まで
ない筋肉をおぎなうみたいな乱暴な受け答えとか
ぎすぎすとした言葉のやりとりで
一触即発の緊張状態なんだけど
でも定時のあのサイレンが鳴り響いて
わらわらとタイムカードを切ってしまえば
うそみたいに仲良く
夕陽に顔をあかく照らされながら
日が暮れるのも構わずたっぷり
釣りを楽しむらしい

もうすぐ港について
釣り道具を用意して
糸を垂らすことだろう
ずらりと並んだ背中はきっと
かわいらしいだろう
釣ったのを写真にとって
ものさしで測って
みんなに見せてまわって
最後にトランクの簡易キッチンでさばいて
お醤油かけてつるっとやって
楽しいんだろうね
楽しいんだ
こんな塩くさい
錆の匂いがしみついた工場の
すさんだ言葉にまみれた一日の終わりには
ちゃんとあるんだ
滑らかな円のような時間が

徐々に焼けてゆく西の空
時計の秒針の音だけがひびく事務所で
あんみつを食べに行く約束をしたりする
そうだ、わたしにもある
こういう時間
それが、その15分間

 

 

 

 

***

 

8月に帰省し、以前働いていた職場の方の何人かとお茶してきました。とても楽しくて嬉しいひとときでした。色々と懐かしい話をしたりして、当時の風景が目に浮かぶようでした。

私はとにかく失敗の多い人間で、怖くて仕事に着けない無職時代があったのですが、その職場に入ってからは約5年勤めることができました。小さな会社で、荒っぽくて、でも気のいい人たちが三十人ほどいました。叱ってくれたり、助けてくれたり。引っ込み思案で打たれ弱い私を鍛えてくださった先輩たちに、いまも本当に感謝しています。

港町だったせいか、みなさん夕方には釣りに出かけていたようです。翌朝、事務所に来て、釣った魚の話をよくされていました。事務も職人も役員も混ざって、朝からする釣り談義は、なんとも楽しそうな雰囲気。辛い仕事もありましたが、そういうひとときに助けられていたなぁと思います。