silentdogの 詩と昼寝

詩をおいてるばしょ。更新はきまぐれ。

このからだで生きている


この国の人の身体の中には
魚が棲む

 

うすい皮膚と細い骨の扇で
みずをあおぐたびに
波だつ翡翠色の沼
そのそばには
樹が在る

 

力強く絡まり結びつく繊維が
縦横に張り巡らされる森の土の
鮮やかな匂いを辿って
苔むす青の中に分け入ってゆけば
荒野がひろがる

 

風がたえまなく吹いて
崩れた岩石が砂となって飛散する
いつか見た祈りの旗がはためき
ついに破れてしまうその中を
狼が駆けぬける

 

その人の身体の外には
ガーベラの花があふれる部屋に
ちらばるアクセサリーと化粧品
片付けられない夢とかなしみ

 

目覚めて眠るまでの間
部屋を出て
歩いたり座ったり立ったりしているうちに
身体は町にさらされる

 

町には夢を打ち砕くリスクが蔓延している
悪意がさまよい
失望がただよっている
強く打ち据えられて
少しずつ傷んでしまう

 

その身体をよこたえて
今日のあらゆることを抱きしめるうちに
修復しきれなかった傷からもれだす水や
風や森や砂が
視界をうめてゆく

 

この国の人の
一日の終わりは
魚とともにある
風とともに
苔に這う蟲とともに
熱にさらされ
狼とともに駆け抜け
そして
明日も生きようとする
身体の内外の
あらゆるものを重ねた厚い厚い目蓋をあけて
明日も明後日も
この身体で