天狼のある部屋
あおじろくもゆる焔は
人々がそれを幾千度、と話すとき
あのあおざめたくちびるの温度と、どのあたりで平衡するだろう
ふるい冷蔵庫がごくりとのどをならしている
これほどまでに冷えた部屋は星のよう
拡散しない冷たさは、硬いと言っていい
温度計を手に鉄塔の上から透視すれば
今日この町は星図のようだろう
なかでもひときわ輝くのは
天狼のページが開かれている、この部屋に違いない
37度近い体温のわたしの末端がもえるように冷えている
乾く喉のために水をくむ
このぬるさは闇でも光でもない
広大な真空そのものの感触
*
ときどき、自分の好きな詩を読み返します。
「天狼」は本当に美しい詩だと思います。今月、鈴木漠さんの詩集をあらためて読み返していたのですが、新しく発見することや、初めて理解できたこともありました。ずいぶん前に古本屋で買った連句集も、ようやく読みたいと思うようになりました。
歳をとったせいなのかな、と考えています。
ある朝
その日の朝はうすくかなしい匂いがしていた
すがすがしいの意味を考えていた
不安なような
もはや何もかもどうでもいいような
けれど水を飲まなければいけない気がして
うすぐらいキッチンで水を飲んだ
家を出て
点描された風景のなかを歩いて
みんなのところへ行く
かたちが散ってゆくまぎわの街の上に
千の青色がかさねられた空がおりてくる
いきすがら
外をごらんよ、と母に伝えたいと思った
けれども多分あまり意味がない
白い湖の真ん中で
みんなは舟に乗って待っていた
わたしはときおり濃淡がかわる灰青の点を
飛び石のようにふみすすみながら
舟へむかった
そしてもう一歩のところで
そとをごらんよ、という音が
反射する水面になって
まぶしくわたしをつつんだのだった